失語症や構音障害があると、「伝えたい内容はあるのに言葉が出てこない」「話しても相手に聞き取ってもらえない」「相手の説明を十分に理解できない」といった困難が生じます。家族とは会話ができていても、初対面の人との会話、電話、窓口での手続き、仕事の報告などでは、支障が大きくなることもあります。
障害年金では、失語症や構音障害という診断名だけで判断されるわけではありません。ことばの機能がどの程度制限され、それが日常生活や仕事にどのような影響を及ぼしているかを、具体的に整理することが大切です。
失語症・構音障害も障害年金の対象となることがあります
日本年金機構の障害認定基準では、「音声又は言語機能の障害」に、構音障害・音声障害・失語症などが含まれています。もっとも、障害年金を受けるためには、障害の程度だけでなく、原因となった病気やけがの初診日、初診日に加入していた年金制度、保険料の納付要件なども確認する必要があります。
失語症と構音障害の違い
| 区分 | 主な状態 | 生活場面で表れやすいこと |
| 失語症 | 脳の言語を担う部分が後天的に損傷され、いったん身につけた言語機能に障害が生じた状態です。 | 話したい言葉が出ない、相手の話を理解しにくい、読み書きが難しい、言い間違いに気づきにくいなど。 |
| 構音障害 | 舌・口唇・口蓋・咽頭・喉頭などの形や運動の障害により、発音が不明瞭になる状態です。 | 発音が聞き取りにくい、何度も聞き返される、電話で伝わりにくい、長く話すと明瞭さが低下するなど。 |
失語症と構音障害が同時にみられることもあります。また、片麻痺、高次脳機能障害、そしゃく・嚥下機能の障害などが併存する場合もあります。そのため、「話せるかどうか」だけでなく、全体の障害像を確認することが必要です。
障害認定基準では何を確認するのか
失語症の場合
失語症では、話すことによる表出と、聞いて理解することの両方が確認されます。標準失語症検査などが行われている場合は、その結果も参考にされます。また、話す・聞くよりも読み書きの障害が重い場合には、その状態も含めて総合的に認定するとされています。
構音障害の場合
構音障害では、発音できない語音の種類に加えて、語音発語明瞭度検査などが行われている場合には、その結果も参考にされます。ただし、検査結果だけでなく、実際の日常会話が誰と、どの程度成り立つかを合わせて考える必要があります。
等級の考え方
認定基準では、話すことや聞いて理解することがほとんどできず、日常会話が誰とも成立しない程度を2級の目安としています。障害厚生年金では、会話に多くの制限があり、推測や質問によって部分的に成り立つ程度が3級の目安として示されています。さらに、互いに確認することで会話がある程度成り立つ状態は、障害手当金の基準に関係する場合があります。
これらは認定基準上の目安です。実際には、原因となった傷病、治療経過、検査所見、日常生活や就労への影響、他の障害の有無などを含めて審査されます。3級と障害手当金は障害厚生年金の制度です。
ことばの困りごとを7つの場面で整理する
診断書の依頼や病歴・就労状況等申立書の準備では、次の場面ごとに事実を整理すると、生活上の支障が伝わりやすくなります。
| 整理する場面 | 確認したいこと | 具体例 |
| 話す | 言葉の出やすさ、文の長さ、誤り、会話にかかる時間 | 名前や用件が出ない/単語だけになる/質問に答えるまで時間がかかる |
| 聞いて理解する | 一対一と集団、短い話と長い話、質問の複雑さによる違い | 短い指示は分かるが複数の内容は混乱する/早口や周囲の雑音で理解が落ちる |
| 読む・書く | 文字、文章、数字、申請書やメールの理解・作成 | 通知文を一人で読めない/氏名以外を書きにくい/メールの内容を取り違える |
| 相手・環境 | 家族と初対面の人、対面と電話、静かな場所と騒がしい場所の差 | 家族は推測できるが初対面の人には伝わらない/電話では口形や身振りが使えない |
| 外出・手続き | 受診、買い物、行政・金融手続き、緊急時の連絡 | 受付で用件を説明できない/契約内容を確認できない/緊急時に住所や症状を伝えにくい |
| 仕事 | 指示理解、報告、電話、会議、接客、読み書き、誤りと配慮 | 電話業務を外してもらう/指示を文字で受ける/確認者が必要/配置転換や勤務時間短縮がある |
| 支援・代替手段 | 誰が、どの場面で、どの程度支えているか | 家族が通院に同席する/選択肢を示してもらう/筆談・身振り・会話支援機器を使う |
「できる・できない」だけでなく、成立条件を記録する
ことばの状態は、相手や環境によって大きく変わります。「会話できる」とだけ書くと、実際に必要な支援が伝わらないことがあります。次の点まで確認しておくことが重要です。
- 家族との会話は成り立つが、初対面の人には伝わりにくい
- 短い質問には答えられるが、複数の内容を含む説明は理解しにくい
- 選択肢、身振り、文字、絵などの手がかりがあれば伝えられる
- 何度も聞き返したり、言い直したりすることで、ようやく内容が確認できる
- 会話に時間がかかるため、相手が途中で代わって説明している
- 疲労、緊張、騒音、時間制限によって、ことばの状態が悪化する
就労状況は仕事内容と配慮を具体的にする
就労している場合は、勤務しているという事実だけでなく、障害によって仕事がどのように制限されているかを整理します。発症前と現在の仕事内容を比べると、変化が分かりやすくなります。
- 電話、接客、会議、口頭報告などから外れている
- 口頭の指示を文字にしてもらう、短く区切ってもらうなどの配慮がある
- 報告書やメールを他の職員に確認してもらっている
- 伝達の誤りや聞き違いにより、業務上の問題が生じたことがある
- 配置転換、勤務時間の短縮、業務量の調整、休職・退職などがあった
- 同僚や家族が、連絡や手続きを代わりに行っている
主治医へ伝える情報を準備する
障害年金の診断書は、主治医が診察や検査結果に基づいて作成します。一方、診察室だけでは、電話や買い物、行政手続き、家庭内での会話、仕事上の配慮などが十分に伝わらないことがあります。本人や家族が生活上の事実を整理し、主治医へ情報提供することが大切です。
主治医へ伝えるメモには、次の項目をまとめます。
- 原因となった病気やけが、発症時期、治療・リハビリの経過
- 標準失語症検査や発語明瞭度検査などの実施日と結果
- 話す・聞いて理解する・読む・書くのそれぞれの状態
- 家族と初対面の人、対面と電話など、条件による違い
- 日常生活、外出、手続き、仕事に生じている具体的な支障
- 家族や職場が行っている支援、使用している代替手段
検査結果や言語聴覚療法の記録は、状態を整理して主治医へ伝える際の参考になります。ただし、検査の得点だけで障害年金の結果が決まるものではありません。診断書の内容は、医師が医学的に判断して記載します。
他の障害がある場合は、診断書の種類を事前に確認する
脳血管障害や頭部外傷では、失語症・構音障害に加えて、片麻痺、高次脳機能障害、そしゃく・嚥下機能の障害などが併存することがあります。状態によっては、「言語機能の障害用」以外の診断書も必要になる場合があります。
日本年金機構は、障害年金の要件、使用する診断書の種類、診断書に記載する症状の日付を確認するため、診断書を作成する前に年金事務所等へ相談するよう案内しています。主治医へ依頼する前に、必要な診断書を確認しておくと安心です。
家族からの情報も大切にする
失語症があると、本人が困りごとを十分に言葉で説明すること自体が難しい場合があります。家族から見た、会話の成立状況、代理している手続き、外出時の支援、仕事を続けるうえでの変化なども重要な情報です。
ただし、家族の説明だけで進めるのではなく、短い質問、はい・いいえで答えられる聞き方、文字や絵などを使いながら、できる限り本人の意思を確認することが大切です。
まとめ
失語症・構音障害による困難は、会話だけに限られません。電話、読み書き、受診や行政手続き、買い物、緊急時の連絡、仕事上の指示や報告など、生活のさまざまな場面に影響します。
障害年金の準備では、ことばの検査結果に加えて、「誰と、どのような条件なら意思疎通ができるか」「どのような支援が必要か」「生活や仕事にどのような制限があるか」を具体的に整理することが重要です。
未来のいえの支援
未来のいえの支援 社会保険労務士事務所 未来のいえでは、言語聴覚士・公認心理師・社会保険労務士の視点から、失語症や構音障害がある方の生活状況と就労状況を整理し、診断書作成依頼の準備や病歴・就労状況等申立書の作成を支援しています。書類の取得と年金事務所への提出は、ご本人またはご家族にお願いしています。
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